私の所属する北陸先端技術大学院大学は、プラスチック問題解決のため、有機物から生分解性プラスチックを作る研究をしています。15年前、私のふるさと熊本の「スイゼンジノリ」を、生分解性プラスチックの原料に使えないか試行錯誤を繰り返していました。
「スイゼンジノリ」は、27億年前に生命の起源となったラン藻類の一つ。非常にきれいな地下水・湧水でのみ育つ、日本の貴重なバイオマス資源です。結果的にプラスチックはできなかったのですが、その実験の途中に偶然見つけたのが「サクラン」です。
ある日実験を終え、スイゼンジノリの後始末を翌日しようとビーカーに水を注いで帰ったところ、翌朝ビーカーから溢れんばかりの透明なプルプルが発生!「えっ何これ?」とびっくり。今まで無機物ばかり扱ってきたので、「生物ってこう言うものをつくれるんだ」という感動と「これは何か新たな素材になるのでは?」と好奇心でいっぱいに!これがサクランとの初めての出会いでした。もしあの時あのプルプルを捨ててしまっていたら、サクランは誕生しなかったかもしれません。
あらゆる角度から調べてみると、この物体は多糖類であること、他に類を見ないほど高分子であることが分かりました。スイゼンジノリから、こんなすごいものが見つかるとは!そこで、スイゼンジノリの学名「sacrum」(“聖なる”を意味する)から「サクラン」と名前を付け、さらなる研究を始めたんです。
研究を進めるにつれ、サクランは化粧品原料としても非常に優れた機能を持っていることが分かりました。
まず、サクランは肌の上に留まっている時間、保湿の持続力がとても長いんです。なぜなら、分子量が巨大で肌を覆う面積が広いから(ちなみにサクランの分子量は1,200万~2,000。この世で最も大きいとされていたDNAの分子量が600万なので、圧倒的な大きさと言えます)。
また、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの高分子の性質として、肌の汗に含まれる塩分に触れると、形状が変わって構造が崩れてしまい保湿力は低下します。ところがサクランは、塩分に触れても変化せず、保湿力を維持できる。―これは唯一サクランだけの特性なんです。数ある保湿原料の中で今までヒアルロン酸が保湿力ナンバーワンでしたが、サクランはなんとその5~10倍もの保湿力があります。
皆さん、ヒルドイドってご存知ですか。皮膚科で出してくれるクリームですが、ヒルドイドの主成分ヘパリン類似物質は、その構造の中に硫酸基を持っていて、この硫酸基があると抗炎症作用があることが分かっています。サクランもこの硫酸基を持っていたので、抗炎症作用があるのではないか、と調べました。すると、アトピーのガサガサまで落ち着かせるほどの高い抗炎症効果があることも分かったんです。ヒルドイドは抗炎症はあるけれど保水力はあまりありません。サクランは両方の力を兼ね備えたすごい原料ですよ。
研究で明らかになるほど、高い保湿力、肌の上で皮膜を形成するいわゆるバリア機能、抗炎症効果、粘性も高いですので増粘効果、それでありながらベタつきがない。ここまで優れた能力を持つものはないと思います。私が知る限り、一つで何役もできる原料はこれだけです。
さらに私が好きなのはポロポロが出てこないこと。他の保湿剤とかオールインワンとかも、擦ったりファンデーションを塗る時にポロポロ出てくることってありませんか?サクランは、ファンデーションの前に使っても化粧ヨレしないところがすごいと思っています。肌への吸着率が高いからでしょうね。ピタッと張りついて、剥がれない。だからと言って圧迫感はありません。
だから化粧持ちをよくするために、ベースメークの前に使うのもいいですね。化粧水や乳液と併せて使ってもいいですし。順序としては化粧水の後の美容液として、乳液やクリームの前がいいですね。全身に塗るときはお風呂上がり、乾燥する前に塗ると、水分を抱え込む力がより発揮できると思います。
今はサクランを使った化粧品が増えていますけど、ネイチャー生活倶楽部さんのこの原液ほど高濃度じゃないと思います。アトピーなどひどい肌の悩みをどうにかしたい、という所が原点なので、サクランの効果をしっかり出そうと創られた結果でしょうね。私も大切に使っています。
発見以来15年、世界中で「サクラン」の研究が進められて、あらゆる分野から注目が集まるようになりました。熊本大学では薬学部の有馬先生が医学部と共同で、アトピー性皮膚炎の臨床結果が実証されました。レアメタルやレアアースを吸着するという性質を活かし、工場排水からレアメタルやレアアースを回収する技術にも活用されています。また、繊維に織り込んで保湿性の高い肌着の新素材とても、商品化されています。
近年、フランスの大手化粧品メーカーや中国からもオファーが来るようになりました。まだ実験段階ですが、消化器・腎臓・肝臓疾患への効果も明らかになっていて、将来的には再生医療はサプリメントにも期待されています。
私もこの奥深いサクランの研究を、もっともっと進めて、皆さんに役立てていただけるよう頑張ります。